脳と皮膚は、胎児発生の段階でどちらも「外胚葉」から生じるため、もともと密接な関係にあるといわれています。ストレスで肌荒れやかゆみが出ることは多くの人が経験しますが、「心の状態が皮膚に影響する」という見方は古くから存在してきました。
今回、これとは逆に “精神疾患の発症時に皮膚症状を伴うと、その後のメンタルヘルスに影響する” という新しい知見が報告されました。
研究の概要:初回の精神病発症時に皮膚症状があると、その後の状態が悪化しやすい
2025年、アムステルダムで開催された「ヨーロッパ神経精神薬理学会」で、スペイン・マドリードの研究チームが発表したものです。
・対象:初回の精神病エピソード(幻覚・妄想などが人生で初めて現れた状態)の患者 481名
・平均年齢:20代後半
・観察した皮膚症状:発疹、光に対する過敏症(光刺激でヒリヒリする)など
結果
・患者の 14.5% に皮膚症状が認められた
・特に女性では 24%(4人に1人) と高率
・全員が4週間の抗精神病薬治療を受ける中で経過を追跡
その結果、皮膚症状があった人ほど
・うつ症状が強く
・主観的な幸福感が低く
・社会的な適応能力も低い
という傾向が明らかになりました。
因果関係はまだ不明ですが、皮膚症状の有無が精神的な予後を予測する手がかりになる可能性があると研究者は述べています。
なぜ皮膚と心が関係するのか?
研究チームは、脳と皮膚がいずれも外胚葉由来であることから、
・共通の生物学的経路
・神経・免疫の連動
が背景にある可能性を指摘しています。
精神病だけでなく、
・統合失調症
・双極性障害(躁うつ)
・ADHD
・不安障害
・うつ病
などでも同様の傾向が見られるかは、今後の研究が期待されます。
臨床における活用:肌を見ることで心のリスクが分かる?
この知見は医療の現場でも応用可能です。
・精神科医が診察の際に皮膚の状態をチェックする
・異常があれば、メンタル悪化リスクを早期に評価できる
こうした観点から、皮膚科と精神科を横断する「サイコダーマトロジー(精神皮膚医学)」という分野が欧米で注目されています。
日常生活での示唆
肌トラブルには、
・食事
・腸内環境
などの身体的理由も多いですが、 ストレスやメンタル不調が背景にあることも少なくありません。
自分や周囲の人が肌の不調を訴えているとき、
「心の負担が影響していないか?」
と視点を広げてみることが大切です。