運動は健康維持や生活習慣病の予防に有効であり、
多くの研究で大腸がんをはじめとするさまざまながんの発症リスクを
低下させることが報告されています。
しかし近年、「運動は多ければ多いほど良いのか」という疑問も提起されています。
今回は、超長距離ランナーを対象とした研究から見えてきた
「過度な持久系運動と大腸がんリスクの可能性」について紹介します。
2025年4月に発表された研究では、
35~50歳の超長距離ランナー94人を対象に大腸内視鏡検査が行われました。
対象となったのは、過去10年以内に以下のいずれかを達成した人です。
• フルマラソンを5回以上完走
• 100マイル(約160km)のウルトラマラソンを2回以上完走
研究のきっかけは、研究者が30~40代という比較的若い年齢で
進行大腸がんを発症した患者を続けて診察したことでした。
これらの患者に共通していたのが、ウルトラマラソンやフルマラソンを
頻繁に行う超長距離ランナーだったのです。
検査の結果、参加者の中に大腸がんそのものは発見されませんでした。
しかし、大腸がんの前段階とされる「腺腫(せんしゅ)」が高い割合で見つかりました。
具体的には、
• 腺腫が見つかった人:41.5%
• 進行腺腫が見つかった人:15%
という結果でした。
特に注目すべきは、進行腺腫の発見率です。
同年代の一般人口では約1.2%とされており、
今回の超長距離ランナーでは10倍以上高い割合となっていました。
さらに、多くの進行腺腫は右側結腸に存在していました。
右側結腸にできる病変は症状が出にくく、発見が遅れやすい傾向があるため注意が必要です。
研究者らは、いくつかのメカニズムを推測しています。
長時間の持久運動では、血液が筋肉へ優先的に送られるため、腸への血流が減少します。
その結果、
• 腸粘膜の損傷
• 慢性的な炎症
• 組織修復の繰り返し
などが起こり、発がんリスクを高める可能性があります。
実際に長距離ランナーでは、虚血性大腸炎や血便、腹痛などの
消化器症状が比較的多く報告されています。
過酷な持久系競技の後には、腸内で重要な役割を果たす
「酪酸産生菌」が減少することが報告されています。
酪酸は腸の健康維持や免疫機能に深く関わる物質です。
そのため、腸内環境の乱れによって免疫機能が低下し、
発がんリスクに影響を及ぼす可能性が考えられています。
今回の研究は、超長距離ランニングと大腸がんの前がん病変との関連を示したものであり、
「マラソンをすると大腸がんになる」と証明したわけではありません。
また、適度な運動が健康に有益であるという事実は変わりません。
重要なのは、
「適度な運動は健康を守るが、極端な運動は必ずしも健康的とは限らない」
という点です。
今回の研究では、超長距離ランナーにおいて大腸がんの前がん病変である進行腺腫が
一般人口よりも高頻度に認められました。
現時点では因果関係は明らかではありませんが、
過度な持久系運動による腸への負担が関係している可能性があります。
マラソンやウルトラマラソン、トライアスロンなどを継続している方は、
血便や腹痛、下痢、便通の変化などの症状を軽視せず、
必要に応じて大腸内視鏡検査を受けることが望ましいでしょう。
健康に良いとされる習慣でも、
「やり過ぎは逆効果になり得る」という視点を持つことが大切です。