― 慢性疲労症候群に潜む「無意識の呼吸異常」 ―
近年の研究により、慢性疲労症候群(CFS / ME)の患者さんの多くに、無意識のうちに呼吸の異常が生じていることが明らかになってきました。この背景には、自律神経の乱れが関与している可能性があると考えられています。
慢性疲労症候群とは、
・6か月以上続く
・原因不明の強い倦怠感
・日常生活に支障をきたす
といった特徴を持つ疾患です。
特に特徴的なのは、
・軽い運動や思考の後に症状が悪化する
(いわゆる労作後倦怠感)
・睡眠障害
・思考力低下(ブレインフォグ)
・息切れ、呼吸のしづらさ、呼吸困難感
など、非常に多彩な症状がみられる点です。
◎以前から指摘されていた「呼吸の異常」
慢性疲労症候群の患者さんの一部では、以前から次のような呼吸の問題が指摘されていました。
・必要以上に呼吸してしまう(過呼吸傾向)
・呼吸が速くなる
・換気効率が悪くなる
ある報告では、患者さんの約22%において、安静時から血中の二酸化炭素(CO₂)濃度が低いことが示されています。
CO₂濃度が低いということは、呼吸が過剰になっている状態を意味します。
このような呼吸異常は、自律神経の乱れによる呼吸調節異常、いわゆる「自律神経性呼吸異常」が関係しているのではないかと考えられてきました。
◎注目された最新研究の内容
今回注目された研究では、慢性疲労症候群の患者と健康な人を対象に、運動中の呼吸パターンが比較されました。
アメリカのマウントサイナイ医療センターの研究チームは、
・慢性疲労症候群患者:57名
・健康対照群:25名
を対象に、2日連続で心肺運動負荷試験を実施
被験者は自転車エルゴメーターで限界まで運動し、その間に、
・酸素消費量
・心拍数
・呼吸の速さ・深さ
・呼気中のCO₂濃度
などを詳細に測定
◎過換気と機能性呼吸障害とは
● 過換気
軽い運動中にもかかわらず、呼気中のCO₂濃度が34mmHg未満になる状態を指します。
これは、CO₂を吐きすぎている状態です。
● 機能性呼吸障害
本来であれば運動強度に応じて滑らかに増えるはずの呼吸が、
・呼吸数
・換気量
の関係が乱れ、呼吸のリズムが不規則になる状態を指します。
◎研究結果:驚くほど高い呼吸異常の頻度
結果は非常に明確でした。
慢性疲労症候群の患者では
・42%に呼吸リズムの乱れ
・32%に過換気
・約70%に何らかの呼吸異常
が認められました。
一方、健康な人では、
・呼吸リズムの乱れ:16%
・過換気:4%
にとどまり、両方を併せ持つ人は一人もいませんでした。
なお、最大酸素摂取量(VO₂peak)は両群で同程度であり、単純な体力差では説明できないことも示されました。
◎なぜ無意識の呼吸異常が起こるのか
主な原因として考えられているのが、自律神経の乱れです。
・自律神経は、
・血圧
・心拍数
・消化
・呼吸
といった生命維持機能を無意識に調節しています。
慢性疲労症候群ではこのネットワークが崩れ、
・起立性調節障害
・起立時の心拍数異常(POTS)
・低炭酸ガス血症
などが起こりやすくなります。
CO₂が低下すると血管が収縮し、脳血流が低下するため、
・めまい
・しびれ
・ふらつき
といった症状が現れます。
◎呼吸の乱れは「癖」として定着する可能性
呼吸異常の正確な原因はまだ完全には解明されていませんが、
・長期の体調不良
・不安
・心理的・身体的ストレス
によって、無意識の呼吸の癖が形成され、それが症状を悪化させる
負のスパイラルに陥っている可能性が指摘されています。
◎改善のために考えられる対策
呼吸の観点からは、以下のような対策が考えられます。
・ヨガやピラティスによる呼吸トレーニング
・水泳など、呼吸リズムが重要な有酸素運動
・呼気中CO₂を可視化するデバイスを用いた
バイオフィードバック訓練
これにより、「吐きすぎている」ことに気づき、
ゆっくり深い呼吸へ修正することが可能になります。
◎ため息やあくびにも意味がある
ため息やあくびは、決して悪いものではありません。
・ため息:肺胞を広げ、呼吸機能をリセット
・あくび:副交感神経を優位にし、心身をリラックス
いずれも、体を守るための生理的な調整機能です。
◎日常生活へのメッセージ
慢性疲労症候群に限らず、私たちもストレスを感じると無意識に呼吸が浅くなります。
そんな時こそ、
一度、ゆっくり深呼吸する
それだけで自律神経が整い、気持ちや体の緊張が和らぎます。
呼吸は、誰でも今すぐ見直せる健康管理のツールです。
ぜひ日常生活の中で、上手に呼吸と付き合っていってください。